【鹿児島】芋焼酎と、温泉と、桜島と/春風に誘われて、ワンオクの旅/森伊蔵など焼酎蔵めぐり/霧島温泉でゆったりとくつろぎ、非日常を満喫

桜島は見る角度によって、様々な表情を見せてくれる(写真は垂水市・湯っ足り館から)

 鹿児島県の鹿児島、姶良、霧島、垂水の4市でつくる「錦江湾奥会議」(ワンオク会議)は、桜島などの豊かな自然を生かした地域ならではの観光をPRしている。今回、 ぽかぽか陽気に誘われて、ゆったりと温泉につかりながら、焼酎蔵を中心に魅力的なスポットを訪ねた。(加藤 博之)

垂水市にある森伊蔵酒造

森伊蔵、明るい農村、白金乃露に舌鼓。名山堀で昭和を満喫

【森伊蔵酒造】

 垂水市にある1885年創業の森伊蔵酒造。その店構えは予想していたよりも小さく、静かなたたずまいだった。客が一様にニコニコとした表情を浮かべていたので不思議に思っていると、すぐにその理由が分かった。芋焼酎「森伊蔵」(1・8リットル)の購入方法は電話抽選のみ。訪れていたのは、当選して受け取りに来た人たちだった。

 森伊蔵は1988年12月に誕生した。まろやかでありながら、キレのある味わい。その評判は口コミと焼酎ブームが相まって、一気に広まった。人気に火が付いた頃は先着順で、国道220号線沿いにある店先には、買い求める客が前夜から並んだ。

 番頭代理の宮内貴浩さんが面白い話を聞かせてくれた。5代目にあたる森覚志社長が家業を継いだ81年頃、当時の銘柄「錦江」は思うように売れず、経営も厳しかった。そこで森社長は、原料や仕込みなど焼酎造りに関わるすべてを箇条書きにして、その真逆のことをやってみることにしたのだという。

 これが転機となった。以来、原料にこだわり、日々研さんを重ねながら、真剣に焼酎造りと向き合っている。「目の届く範囲でやりなさい」という森社長の教えを守り、今も変わらぬ姿勢で、一本一本丁寧に造り続けている。

 「待ってくださっているお客さんがいる。常にその緊張感があります」と宮内さん。森伊蔵酒造の商品を購入すると、レシートには「感謝」の2文字が記されている。

霧島町蒸留所を古屋さんが案内してくれた

 【霧島町蒸留所】

 霧島市の蔵からは、高千穂の峰をはじめとする霧島連山も望める。反対側に目を移せば遠くに桜島が見える。そばには、アユも釣れる霧島川。のどかな風景の中に霧島町蒸留所はある。観光名所の霧島神宮からは車で10分ほどだ。

 1911年創業で、蔵は無料で見学ができる。専務の古屋明子さんに案内してもらう。手づくりの和がめを用いた昔ながらのかめ壺仕込み。水は、地下105メートルからくみ上げたミネラル豊富な天然水を使っている。

 代表銘柄は「明るい農村」。そのユニークな名前の由来は、見学途中にあった歌碑に刻まれていた。

 よき焼酎は、よき土から生まれ、よき土は、明るい農村にあり――。

 なるほど。原料となる良質なサツマイモを収穫するには土が大事で、その土を育むのは、その土地に生きる人ということなのだろう。

 古き良き日本を連想させる風景の中から生まれた明るい農村。魚、肉、野菜、どんな料理にも合うし、ロック、水割り、お湯割り、どんな飲み方でも楽しめる。「包容力があ るんですよ」。古屋さんはそう言って、にこっと笑った。

白金酒造で試飲を楽しむ

 【白金酒造】

 芋焼酎好きがワンオクを訪れたなら、いやむしろ「芋焼酎は苦手で…」という人にぜひ行ってもらいたいのが、姶良市にある1869年創業の白金酒造だ。実際に焼酎を造っている蔵を「石蔵ミュージアム」として開放。無料で見学ができる。

 蔵をぐるっと案内してもらいながら、芋焼酎の製造方法や歴史を学んだ後、最後に試飲が待っていた。まずは、代表銘柄である「白金乃露」をぐびりと一口。「うまい」と、思わず声が出た。続いて別銘柄の「石蔵」を飲む。国の登録有形文化財の石蔵で手造りされている。木樽蒸留器を使っており、独特の風味がたまらない。こだわりの「磨き芋仕込み」という製法で造られた一本一本は、どれも味わいが深い。

 「次にこちらはどうですか」。そう言って勧められると、思わず手が伸びてしまう。白、黒、黄の3種類の麹で造られた石蔵を飲み比べ。さらに、焼いたサツマイモを原料としたもの、にごりのものと、存分に堪能した。

 ミュージアムの女性スタッフはみんな明るくて、元気がいい。「芋焼酎のことをもっとたくさんの人に知ってもらいたい」と、店長の小原祐子さん。同じ芋焼酎でも、原料や 造り方によって、こんなにも違うのかと実感させられる時間となった。

 【名山堀】

 鹿児島市内で芋焼酎とおいしい料理を楽しみたいなら、知る人ぞ知るスポット「名山堀」に行くのがいいかもしれない。昭和っぽさが残る路地裏に、古い建物を改装した店が立ち並ぶ飲食街だ。和食、串焼き、バーやカフェなど13の店があり、いろいろな料理を提供する。鹿児島市観光プロモーション課の鶴薗功樹さんは「レトロな雰囲気の中で食事やお酒を楽しめます。ぜひ立ち寄ってみてください」と勧める。

【取材後記】蔵めぐりをして感じたこと

 焼酎蔵を巡ると、造り手の顔が見える。印象深かったのは、どの蔵でも必ずと言っていいほど、自分たちが造る焼酎以外も勧めてくれたことだ。「鹿児島にある100を超える蔵はすべて、愛情を込めて丹精に焼酎造りをしています。いろんな味を楽しんでくださいね」と。そのこだわりや思いを想像すると、味わいは随分変わる。出会った人たちを思 い浮かべつつ、今夜もまた、グラスを傾ける。(博)


霧島温泉郷

大浴場から家族湯まで 温泉の楽しみ方はいろいろ

【霧島温泉郷】

 夜中に目が覚めて部屋の外を見ると、ごうごうという音とともに湯煙が立ち上っていた。ふとしたことだが、非日常が感じられる真夜中の景色に旅情をそそられ、うれしくなった。

 霧島市の温泉郷には、霧島、霧島神宮、日当山、妙見・安楽などがある。今回泊まったのは霧島温泉郷。天孫降臨伝説の霧島山の懐から湧き出る多種多様な泉質が特徴だ。標高600メートルから800メートルの間に位置する山あいで、落ち着く。日頃のわずらわしい雑事から遠く離れた気持ちになり、ゆっくりできた。

 宿泊した霧島国際ホテルは源泉かけ流しの天然温泉で、趣の異なる10以上の風呂がある。黒牛や黒豚など厳選した地元食材を使ったビュッフェも人気だ。

 朝風呂に入り、車で5分ほどの「霧島最古の岩風呂」に散歩がてら足を運んだ。周辺では、森林セラピーなども盛んに行われているという。この日は、霧が立ちこめ、周囲の森はしんと静まりかえり、どこか神々しい感じがした。森の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

福如雲

【鹿児島温泉処 福如雲(FUKUGUMO)】

 昨年9月、姶良市にオープンした人気の家族湯だ。11の部屋があり、すべて露天か半露天風呂が付いている。四季折々の景色を眺めながら湯船につかれるのが自慢。特に小さい子供がいる家族連れや、カップルに好評で、早くもリピーターが増えているという。大きな温泉に入るのもいいけれど、家族湯のため人目を気にしなくていいのも、人気の理由だろう。温泉ソムリエの資格を持つ代表の重久三郎さんは「泉質にも自信があります。お風呂と景観を楽しんでもらえたら」と話した。

 【道の駅たるみず 湯っ足り館】

 地元の人に愛される温泉施設。露天風呂から見える桜島はまた格別だ。道の駅に併設されているため、地域の農産物なども安く購入できる。海岸には、長さ60 メートルにも及ぶ「足湯」もあり、運が良ければ、イルカが泳ぐ姿を目にすることができるかも。特産品のブリやカンパチを味わえるレストランも人気だ。

【健康の駅 フォンタナの丘かもう】

 3つの源泉をかけあわせた泉質は、トロッとしている。良質な弱アルカリ性炭酸水素塩泉で「美肌の湯」として知られる。地元産の野菜などを販売する市場や、レストラン、 宿泊施設も備える。素材の味を生かした料理も好評だ。調味料として食塩や砂糖を加えずに調理した自然食「夢塩・夢糖(むえん・むとう)」プランもある。


カヤックから望む桜島

シーカヤックで海面を渡る風を感じて

 【かごしまカヤックス】

 シーカヤックに乗って、錦江湾にこぎ出してみた。乗り込むと、目線がぐっと下がって海面に近くなり、今まで見ていた景色が、少し違った感じで目に飛び込んでくる。この位置からの桜島の眺めは、なかなか見ることができない。

 パドルでこぐと、スイスイ進んで行くから面白い。意外だったのは、想像していたより安定感があったことだ。これなら子供や高齢者でも安心。慣れてくると、自分の思ったところに行けるようになり、さらに楽しい。何より、海面を渡っていく風が心地よかった。

 「かごしまカヤックス」は様々なカヤックツアーなどを展開しており、今年で25年目。「海から桜島を楽しむ!」(3時間・一人9000円~)、「ゆるカヤ」(1時間30分・一人6000円~)などのプランがあり、国内からだけではなく、海外からの観光客も多いという。

 ガイドを務めてくれた浦哲郎さんは「鹿児島市内からフェリーで15分ほどのところに、これだけの大自然が残っているのってすごいと思いませんか」と、その魅力を語った 。

ガイドをしてくれた浦さん

多くの観光客でにぎわう霧島神宮

霧島観光と言えば、ここ

【霧島神宮】

霧島市を代表する名所で、国内外から多くの人が参拝する。全国にある25の神宮の一つで、ニニギノミコトを主祭神とし、創建は6世紀といわれる。1715年に島津吉貴によって建てられた現在の社殿の一部は、国宝に指定されている。西側に張り出した展望所からは、桜島や鹿児島市街地などが眺望できる。

 霧島市教育委員会の小水流一樹さんは「社殿の美しさはもちろんですが、元々は火山信仰から生まれた神社で、歴史や背景も踏まえて見ていただくと、楽しみ方が広がります 。何度訪れても新しい発見がある魅力的なスポットですよ」と語った。


蜜滴焼き芋アイス乗せ

一度食べたら、その甘さにやみつき

【ケンファーム】

 垂水市内に昨年12月オープンした。自社栽培のサツマイモブランド「蜜滴芋(みつてきいも)」を使った焼き芋などを販売する。蜜滴芋とは、長い時間をかけて高い糖度になるまで熟成させたもの。

 今月からは「蜜滴焼き芋ジェラート」の販売も始めた。粉末の芋原料は使わず、自社で育てた焼き芋を使用。芋の持つ甘さと、ジェラートのなめらかさがマッチした逸品だ。

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